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「人の声」のつくりかた:合成音声を「触って」みよう!

こんにちは、北海道大学 青木です。前回わたしが執筆した記事 では、フォルマントと呼ばれる音声の特徴量が、母音を識別するうえで重要な手がかりになっていることを説明しました。じつは、フォルマントは、母音だけでなく子音の識別にとっても重要な役割を担っています。子音を識別するうえで重要な手がかりになっているのは、フォルマントの時間変化です。

子音にはいくつかの種類があります。そのなかで、接近音と呼ばれるグループに分類されているのが、ヤ行とワ行の子音です。ヤ行とワ行の子音は、それぞれ、発声の直後は「イ」と「ウ」に聞こえますが、その後、舌の位置が急激に変化し、ほかの母音の音に変化していくことが特徴になっています。このように、時間変化はあるものの音そのものは母音と同じであることから、これらの子音は「半母音」とも呼ばれています。

「ヤ」の音とは、 速い「イア」のこと

図1に、F1-F2ダイアグラムにおけるヤ行のフォルマント遷移を示します。「イ」から「ア」に変化すると「ヤ」、「イ」から「ウ」に変化すると「ユ」、「イ」から「オ」に変化すると「ヨ」になります。また、図2に、F1-F2ダイアグラムにおけるワ行のフォルマント遷移を示します。「ウ」から「ア」に変化すると「ワ」になります。いずれも、フォルマント遷移にかかる時間は100ms程度と短いのですが、こうした手がかりをとらえて音声を識別しているのが、人間の聴覚の驚くべき能力といえるでしょう。

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図1 ヤ行のフォルマント遷移

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図2 ワ行のフォルマント遷移

ドラッグするだけで声が出せるアプリ、つくりました

音声合成では、こうしたフォルマント遷移を適切に再現することが重要なポイントになっています。ここでは、フォルマント遷移をインタラクティブにコントロールしながら音声合成を行うしくみとして、Voice Pad というアプリを紹介します。図3に示すように、Voice Padは、iPadなどのタッチデバイスで動作するアプリになっています。Voice Padは、ブラウザで動作するアプリになっており、特別なソフトウェアのインストールを必要としません。開発中のバージョンは http://bit.ly/2KM0eHS に公開していますので、興味をお持ちの方はぜひ試していただければ幸いです。

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図3 Voice Pad。パソコンのブラウザでも使えます。

Voice PadはF1-F2ダイアグラムを使って音声合成を行います。F1-F2ダイアグラムの任意の位置をタッチすると、その座標値を中心周波数とするふたつのBPF(帯域通過フィルタ)によって音声が生成されます。なお、BPFの中心周波数はF1-F2ダイアグラムをタッチしながらなぞることでインタラクティブに変化させることもできます。

こうしたしくみを利用すると、半母音を生成するために必要なフォルマント遷移を再現することができます。実際に、Voice Padを使って、図1と図2のとおりにF1-F2ダイアグラムをなぞってみると、ヤ行とワ行の子音が聞こえてくるはずです。

ことばの「カタチ」がみえてくる

なお、図1や図2は、ヤ行とワ行の子音をそれぞれ単独で発声する場合のフォルマント遷移になっていますが、連続音声のなかで発声する場合は、前後の音の影響を受けるため、フォルマント遷移はF1-F2ダイアグラムのなかで近道をたどるように変化することが一般的です。図4と図5に示すように、「オハヨー」の「ヨ」や、「コンニチワ」の「ワ」は、フォルマント遷移の開始点が「イ」と「ウ」から遠ざかり、直前の音に引き寄せられるように変化します。これは、調音結合と呼ばれる現象であり、連続音声ならではの特徴になっています。

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図4 「オハヨー」のフォルマント遷移

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図5 「コンニチワ」のフォルマント遷移

じつは、以上のような説明は音響学の教科書では昔からおなじみのものしたが、紙に印刷された普通の教科書ではF1-F2ダイアグラムを図示するにとどまり、実際に音を聞くことはできませんでした。しかし、Voice Padのようなアプリを利用すると、実際に音を聞きながら具体的にF1-F2ダイアグラムと音声の関係について学ぶことができます。

たとえば、国家試験の必修科目として音響学を学ぶ必要がある言語聴覚士の養成校などでは、こうした教材を使ってみることも理解を深めるうえで効果があるのではないでしょうか。ともすれば難しく感じる音響学を学ぶうえで、今後、こうした体験型の教材が一助になる可能性はおおいにありそうです。

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