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『オムロン 音波通信体温計』が30万台の大ヒット! 企画開発者と技術者に聞いた「音波通信」採用の意外な理由

オムロン ヘルスケアは2021年3月、「オムロン 音波通信体温計 MC-6800B(以下、音波通信体温計)」を発売しました。測定した体温を音波でスマホに転送する機能を搭載した、一般の電子体温計では、ありそうでなかった画期的な商品です。現在までの販売台数は30万台を超える大ヒットに(2021年12月13日現在)。これまで、同社のスマートフォンと連携する製品の通信方法はBluetoothでした。しかし、この音波通信体温計は「音波通信」を採用。コロナ禍で、体温測定という健康習慣が当たり前になるなか、音波通信体温計はいかにして生まれたのか。企画開発者と技術者を取材しました。

話を聞いた人:

鈴木 草也香(すずき・さやか)さん
商品企画担当

平田 英宇(ひらた・ひでいえ)さん
技術開発担当

藤田 麗二(ふじた・れいじ)さん
技術開発担当

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左から 鈴木さん、平田さん、藤田さん

ユーザーからの声から生まれた「オムロン 音波通信体温計 MC-6800B」

編集部(以下、--)「オムロン 音波通信体温計 MC-6800B(以下、音波通信体温計)」はどのようは製品でしょうか。

鈴木さん(以下、敬称略) 音波通信体温計は予測式体温計です。これまでと違うのは「検温結果を音波を使ってスマートフォンに転送し、管理できること」です。見た目は一般的な体温計と変わりません。脇の下に体温計を挟んで、約15秒の測定が終わると、自動的に検温結果データが音波に変換され、約2分間、体温計から音波を発信し続けます。弊社のアプリ『OMRON connect』を起動し「転送をはじめる」ボタンをタップすれば、数秒でデータはスマートフォンに送信されます。週別・月別など、蓄積されたデータを見ることで、わずかな体調の変化にも気づくことができます。CSVファイルに出力できるので、職場への体温報告にご利用いただいているケースも多いです。

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取材はリモートにて行いました

−− 音波通信体温計が生まれたのには、どのような背景があったのでしょうか。

鈴木 コロナ前は、体温を測るのは「熱っぽいな」など風邪症状を感じたときでしたよね。でも今は、通学・通勤前の検温はもちろん、お店や公共施設でも体温のスクリーニングをするようになり、体温計の使用頻度や使用目的がガラッと変わりました。また、健康意識が高まるにつれ、自分の体温を日々記録しチェックしたいというニーズも増えました。そのような中で、「通信できる体温計はないか」というお問合わせを多数いただいたんです。コールセンター経由の一般のお客様はもちろんですが、取引先の企業や医療現場といった様々な方面からいただきました。

−− その声に背中を押され、開発に至ったのですか。

鈴木 はい。コロナ禍で体温計の2020年の市場規模は、2019年比較で190%と大幅に拡大ました※。当社の体温計も生産が追いつかない状況で、既存の製品の増産体制を整備すると同時に、お客さまが必要とするニーズにマッチした商品を1日も早く届けようと2020年4月に開発に着手しました。

※オムロン ヘルスケア調べ

「音波」を採用した一番の理由は、開発期間の短さ

−− なぜ通信方法に「音波」を採用したのでしょうか。

鈴木 先ほども申し上げた通り、音波通信体温計の商品化において最優先すべきは「1日も早くお客様の元へ届けること」でした。そのために開発期間や検査のプロセスをなるべく少なくする必要があったのです。これまでのように、Bluetoothを使うとなれば、体温計自体にBluetoothのチップを追加しなくてはいけません。そうすると、開発期間がかなり長期化します。なるべく、既存の製品の形状や構造をそのまま活かすことが求められました

平田さん(以下、敬称略) 体温計には、検温が終わったことを知らせる「ピピピピッ」と鳴るブザーが組み込まれていますよね。つまり、既存の製品にすでに内蔵されている"音を出す部品"を上手に活用できないか、というアイデアから「音波通信」に結びついたのです。

−− なるほど!ですが、音波通信技術の開発にも時間がかかりますよね。

平田 実は以前、技術探索チームで音波通信の可能性を模索したことがありました。2017年頃でしょうか。いろいろな現場で音波通信が使われているという情報をキャッチした当時の上司から勧められて、研究を始めたのがきっかけです。当時は商品化に至りませんでしたが、ゼロから開発し自社のノウハウとして蓄積していました。そして今回のマーケットニーズや開発ニーズにピッタリと合った「音波通信」を、短期間で実装できたとういわけです。

鈴木 開発期間を短くできたのにはもう一つ理由があります。この音波通信体温計は、既存製品と同じハードウェアを使っています。既存の構造や形状が同じことで、医療機器の認証審査などのプロセスを短縮できたことが非常に大きかったです。

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音波通信を搭載していない先代モデルと、見た目は全く同じ。このことが、開発と審査にかかる時間を大幅に短縮した。

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データを受け取る側のスマートフォンアプリ「OMRON connect(オムロン コネクト)」

−− 実際どれほどの期間を短縮できたのでしょうか。

藤田さん(以下、敬称略)通常の2/3くらいでしょうか。あまりピンとこないかもしれませんが、このスピード感は社内でかなり驚かれました。また、同じハードウェアなので、工場での量産体制構築の面でも納期短縮につながったと思います。

「音波通信」の優位性

−− 音波通信の優位性は、開発期間以外だと、どこにあると思いますか?

鈴木 ユーザビリティの高さです。音波通信体温計で計測するのに15秒、アプリさえ立ち上がっていれば数秒でデータを転送できます。体温計測は忙しい朝の時間にすることが多いので、この利便性の高さには嬉しい声をいただいています。

藤田 Bluetoothはペアリングの設定や解除が面倒だという声があったので、ペアリング不要というのは大きいですね。また、体温計ですから、病院などで使われることも多いので、Wi-Fiやネット環境下でなくても使えることも一つのメリットだと思います。

素朴な疑問を聞いてみた!

Q1 なぜ2分間も音波を送信続けるのですか?

A1 体温を測定する前にアプリを起動している人もいれば、測定後にアプリを起動する 人、測定後にスマートフォンを探す人など、いろいろな状況を想定しました。また、 電池寿命の兼ね合いもあり2分間となりました(鈴木)。

Q2 音波を送信し続けている2分間、うるさくないですか?

A2 人の耳に聞こえる可聴域ギリギリの音波なので、静かな部屋で体温計を測定すると 「ジジジジ・・・」と聞こえるかな、くらいの小さな音です。正常に通信できれば 数秒で通信は完了します(平田)。

−− 今後、音波通信を搭載した製品を国外での展開される予定はありますか?

鈴木 まだ企画検討段階ではありますが、他のエリアにも音波通信体温計を展開していきたいとは思っています。ただ海外は、日本ほど体温計測の文化が定着していないので、市場のニーズを分析し、検討していきたいと思います。

藤田 現在、体温計以外では、心電計に音波通信を搭載しています。今後は、音波通信のユーザビリティの高さや手軽さという面を活かして、他の製品に活用していけたらなとは思っています。

−− 今後の展開が楽しみです!最後に読者の皆さんにメッセージをお願いします。

鈴木 検温は一番身近な健康管理の習慣です。平熱を知ることでご自身の体調の変化に気づくことができます。私たちが目指すのは、ニューノーマルなライフスタイルにおけるストレスの少ない健康管理の実現です。ぜひ、音波通信体温計を、毎日の体調管理にお役立てください。

まとめ

  • オムロン ヘルスケアが音波通信機能のついた体温計を発売
  • 30万台を超えるヒット商品となっている
  • 音波通信を採用することで、開発期間を通常の2/3に短縮することに成功
  • 音波通信の優位性はユーザビリティの高さ
  • Bluetoothで必要なペアリングが不要なことがユーザーに喜ばれている

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(スマートサウンドラボ)

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所長:安田 寛 Hiroshi Yasuda

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