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「音波通信」開発のエッセンス 〜普及までのうらばなし〜(7)ノイズに強い通信を目指して

SSLでは近接通信、特に音を用いた「音波通信」にまつわるトピックを中心に記事を掲載していますが、このたび、運営母体である株式会社スマート・ソリューション・テクノロジー(以下、SST)の独自技術である音波通信「TrustSound(トラストサウンド)」開発の責任者でもある首席研究員 難波より、いつもよりさらに技術面に踏み込んだ音波通信についてのお話を連載企画としてご紹介していきますそもそも音波通信とは何なのか?電波の通信とは何が違うのか?どんな技術的課題を乗り越えてきたのか?など、開発をリードしてきた本人目線でお伝えしていければと思います。

みなさまこんにちは、スマートサウンドラボ(以下、SSL)首席研究員の難波です。

これまで、通信速度も通信距離もノイズに関係することを説明してきました。

では実際問題として、どんな種類のノイズが通信に影響するのか。
そしてノイズの大きさはどこまで許容されるのかなど、今回はノイズを中心に解説したいと思います。

音波通信が得意な「うるささ」と苦手な「うるささ」

音波通信のよくある質問の一つに「うるさいところでも音で通信できるのか?」というものがあります。

この質問に回答するには、まず「うるさいとは何か」を説明する必要があります。

簡単に説明すると、世の中には2種類のうるさいがあります。それは音波通信に影響するものと、音波通信に影響しないものです。

しゃべり声がうるさい部屋の場合、音波通信が使う17kHz~20kHzの周波数帯域は意外と静かだったりします。逆に一見静かに感じる場所でも、その周波数帯域に大きなノイズが連続して鳴っている場合もあります。

例えば、冷蔵庫から一定の周波数でノイズが出ていたりします。このような一定の周波数のノイズに対応する場合、通信に使用する周波数を二重化して、ある周波数が全く受信できなくても、他の周波数で通信をカバーできるような工夫が必要となります。

また、大きい音が断続的に鳴っている場合もあります。飲食店の厨房で食器を洗う音などは、人の耳には騒音ではありませんが、カチャカチャと聞こえる音が、実は音波通信で使う17kHz~20kHzの周波数帯域では意外と大きな音で鳴っています。

このように断続的なノイズに対応する場合、ノイズの無い時間だけで通信できるような工夫が必要となります。

SSTの場合、信号の半分以上が受信できなくでもエラー訂正符号によりデータを復元することを可能にしています。

このように、周波数に関するノイズと時間に関するノイズの両方に対して対策をすることにより、現場で発生する色々なノイズに負けない音波通信が実現可能となります。

目には目を、"騒音には騒音を"

それでも、全ての周波数帯域が絶え間なくうるさい案件はたまにあります。

パチンコ店から依頼が来た時は、よりにもよってなぜそんな厳しい条件の所から依頼がくるのかと思いました。さらに上には上があるもので、耳元で話しても内容が伝わらないほどの大きな騒音が鳴り続けている工場からの調査依頼もありました。

天はどうしてこうも音波通信に試練を与えるのでしょうか。しかし、開発者としての興味もあり、半分ダメもとで調査に赴きました。

結果は、どんなに騒音があっても、それ以上の大音量を出せば、通信が可能であることが確認できました。結論としては、どんないうるさくても音波通信は可能ということです。

普段から騒音レベルの音がしている環境の場合、音波通信で大きい音を出しても気にはならないので、実際に運用することも可能と思われました。ただし、既存の製品では、そんな大きな音は出せませんので、専用機器を作って現地に持っていきました。騒音環境では、音波通信のカスタマイズに加えて、音波を出力する機器のカスマイズも必要となった例です。

そして、音波通信の仕組みとしては、周波数の数を減らすという方法があります。

通常は通信速度を上げるために複数の周波数に信号を乗せて通信するのですが、周波数の数を減らすと、1周波数あたりの音量が大きくなります。

例えば100の音量を出せるスピーカーから、同時に10個の周波数を使って通信しようとすると、一つの周波数は10010等分した10の音量しか出せません。しかし通信に使用する周波数の数を1つにすれば、その周波数はスピーカの全音量の100を出すことができます。

ただし周波数の数が10分の1になるということは、通信速度が10分の1になってしまうことになるので、ここでも、通信速度を取るのか、ノイズへの強さを取るのかの判断が必要となります。

音波通信の意外な天敵

「蕎麦をすすらないでください」

これは別に食事のマナーの話ではありません。

パスタをすするのはマナー違反ですが、日本では蕎麦はすすってもいいことになっているので、蕎麦屋に行くと半分くらいの人がすすって食べています。なんで、こんな話をするのかというと、この蕎麦をすする音が音波通信の大敵だからです。

身近にある何でもない音が、実は音波通信の邪魔になるということが結構あります。蕎麦をすする音の他にも、鼻をかむ音など、一般的に摩擦音とよばれるような音は、低い周波数から高い周波数まで、まんべんなく音が鳴っています。結果、普段は比較的しずかな17kHz~20kHzの周波数帯域で大きなノイズとなってしまうのです。

ただし、これらは音が鳴っている時間が短いものが多く、実験室では大敵なのですが、逆に現場では問題にはなっていません。

このように実際の現場では、予期せぬものが音波通信の邪魔をしたり、耳ではうるさいと感じる場所も意外と問題なかったりするため、ノイズ対策が最も予測できない問題と言えます。

そのため、特別な環境で使用するときは、現地に行って測定を行います。必要であればカスマイズすることにより、その場所に最適な音波通信を提供することが可能になります。

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Smart Sound Lab
(スマートサウンドラボ)

URL: https://smartsoundlab.com
所長:安田 寛 Hiroshi Yasuda

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