三菱地所が展開するフレキシブルオフィス「xLINK(クロスリンク)」では、「人とAI・ロボティクスとの共生」をスローガンにエンターテイメント事業を展開するTRIBAWL(トライバル)株式会社によるAI顔認証ソリューション「kaopa(カオパ)」が全面採用されています。しかし、あらゆるゲートをAI顔認証がカバーしているにも関わらず、株式会社スマート・ソリューション・テクノロ ジー(SST)が開発する音波通信技術「TrustSound」を用いた認証システムが追加導入されています。なぜ、AI顔認証だけでは足りないのか? TRIBAWL株式会社 麻生様にお話を伺いました。
お話を聞いた人
TRIBAWL(トライバル)株式会社
執行役員 社長室 事業推進室長 麻生 美和子さん
「画像解析 x ロボティクス」が事業展開の軸
まず、TRIBAWL社のビジネスについて教えていただけますか?
私どもはかなり色々と事業を展開しているのですが、もともとは画像や人の体の動きを解析するなど、様々な事象を数値化・データ化し、それを元にソリューションを組み立てるのが得意な会社です。今日、お越しいただいたxLINKさんに導入されている「kaopa」はそこから派生したAI顔認証の技術を製品化したものです。また、スポーツジムの運営もしているのですが、これもカラダの動きを解析してフォーム改善をアドバイスするといったソリューションと関係しています。アミューズメント施設の開発も進めており、フロア中にセンサーを設置し来場者の動きをとらえ、それに対してさまざまな反応を返すことでさまざまなゲームができる・・例えば手裏剣を投げる動きをすると、実際に壁に手裏剣が刺さる、といったような・・そんなイメージです。
画像解析の技術だけではなくて、それをどういう風にソリューションに繋げるか、というロボティクスの開発能力も自社のエコシステムの中にあるという点がTRIBAWLの強みですね。

TRIBAWL株式会社 麻生様
AI顔認証で、快適かつセキュアなオフィス環境を実現
kaopaについて教えてください。
AI技術を用いることで、非常に高速な顔認証を可能にしているソリューションです。認証のために必要な時間はわずか0.15秒で、感覚としては全く「カメラの前で待つ」感覚がありません。また、正面以外の顔の状態もきちんと認識しますので、ユーザー側は「カメラの前に立つ」という意識をすることなく、単純にドアの前に来れば開錠されると感じられるような、非常にスムーズな体験をしていただけると思います。セキュリティドアというとICカードで開錠するケースが多いかと思いますが、カードの発行や管理、紛失への対応といった手間がかかるかと思いますが、そうした手間やリスクからも解放されます(注:kaopaにはICカード認証の機能も搭載されている)。また、筐体がとてもコンパクトなのも特徴の一つです。

オフィス内の各部屋にkaopaが設置されている。シンプルかつコンパクトなデザインで、ホテルのような洗練されたオフィス空間にも自然に溶け込んでいる
ロボットは「顔認証」できないという問題
今回、kaopaとあわせて音波通信による認証システムを導入されているとのことですが、どのようなものなのでしょうか。
こちらのオフィスはとても広いため、ロビーにあるカフェから部屋までの距離がかなりあります。そこでスマートフォンで注文を受け、セグウェイロボットがデリバリーする、というサービスを提供しています。セグウェイジャパンは当社のグループ企業でして、カフェのデリバリー役として併せてxLINKさんに導入いただきました。このセグウェイのデリバリーロボットに、SSTの音波通信技術を搭載した通信デバイス「TrustSound Sigma」を搭載しています。
なぜ、セグウェイのデリバリーロボットに「TrustSound Sigma」が組み込まれたのでしょうか?
カフェから遠い部屋を利用している方が気軽にドリンクを注文できるようロボット導入を決めたわけですが、デリバリーするにはオフィスゲートを通過しないといけません。人間はkaopaにより「顔=鍵」となってゲートを開けられますが、ロボットは顔が皆同じ(笑)。Kaopaで顔認証できません。そこで、画像解析以外の方法で解錠する技術が必要となり、いくつか検討した結果、TrustSoundが最適との結論に至りました。

セグウェイロボットのロゴ付近にTrustSound Sigmaデバイスが設置されており、ここから「聴こえない音」が発信されている。
電波/近接通信とは違った利点を持つTrustSoundの「音波通信」
運用方法を教えていただけますか。
カフェ側のセッティングはとても簡単です。セグウェイロボットのUSBポートにTrustSound Sigmaデバイスを接続するだけ。USBポートから給電されたデバイスは常に音を出しているのですが、人間の耳には聞こえない音波のため、利用者にはわかりません。
そしてゲート付近の壁にもう一台のTrustSound Sigmaデバイスが設置されており、セグウェイロボットがゲートに近づくとロボットの側から出ている音波をゲート側のデバイスがキャッチ。ゲートを開ける合図として認識し、ゲートが開きます。施錠されていない自動ドアを通るのと、全く同じように見えると思いま す。

壁の上(写真枠外)にひっそりと設置されたもう一台のTrustSound Sigmaが、ロボット側からの音波をキャッチしてゲートを開ける。
kaopaはICカード認証にも対応しているので、ロボットにカードを持たせることも考えたのですが、身長が人に比べて小さいので、kaopaが設置されている高さには届きませんでした・・手もないですし(笑)。
Bluetoothを使うことも候補に挙がったのですが、電波の場合「遠くに届き過ぎる」という側面があります。ここはテック系企業が多く入居しているオフィスということもあり、どんな電波干渉が起こるか分からない懸念がありました。TrustSoundの技術は「音」ですからそういった心配が一切ありません。非常にシンプルな運用が可能です。
さらに、xLINKさんは空間のデザイン性に強いこだわりを持っていらっしゃいまして、kaopaもセグウェイのデリバリーロボットも、機能だけでなくヴィジュアルという点でも評価をいただきました。TrustSound Sigmaも同様です。シンプルデザインで筐体も小さく、セグウェイロボットに接続した際の見た目に全く違和感がありません。ゲート側も誰も気付かないように設置できました。
SSTさんにはゲートを開ける命令を出す部分や音量の調整など、導入にあたってはカスタマイズをしていただきましたが、その作業も非常にスムーズでした。今後も、当社のロボティクスソリューションとの組み合わせで、何か面白いことができるのではないか?と期待しております。