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決済用コード統一規格「JPQR」の現実と課題

決済用コード統一規格「JPQR」の実証事業が8月1日からスタートしました。決済用コードを統一することで店側の負担を軽減しQRコード決済の拡大につなげたい政府は、8月1日から岩手県、長野県、和歌山県、福岡県においてJPQRに準拠したコード決済を導入し、それを通したキャッシュレス化の進展を検証します。
乱立するバーコード決済『○○Pay』をひとつにすることで、キャッシュレス化は進むのでしょうか。実証事業がスタートした県の現状を調査しました。

どこにも存在しないJPQR

日本列島が酷暑に見舞われ「危険な暑さ」と連日報道されていた8月17日、東京から新幹線で1時間強とアクセス抜群の長野県軽井沢町には、多くの観光客が避暑を求めて訪れていました。住民だけでなく、国内外からの観光客も多い軽井沢町ならJPQRを導入している店舗も少なくないだろうと観光名所を回り調査を試みました。

ところがJPQRで決済できるお店が全く見つかりません。駅前のアウトレットモール、旧軽井沢銀座通りのお土産やさんや飲食店、コンビニエンスストアやスーパー、地元の特産物を売っている道の駅など、どこに行ってもJPQRを導入している店舗はありませんでした。
お店の人に尋ねるも「JPQR」自体を知らない人ばかり。

痺れを切らして長野県の産業労働部 産業立地・経営支援課に問い合わせてみました。それによると、長野県では現在1300強の事業者がJPQRに申し込んでいるものの、どこの店舗で既に導入しているかを県では把握できていないとのことでした。申し込みがあった店舗にはJPQRのQRコードを順次発送しているものの、利用するタイミングは店舗によって様々なため、把握が困難なようです。

また、軽井沢町商工会にも問合せをしたところ現在JPQRの申込み期間中であり、8月末に締め切るとのこと。締め切りを待って9月以降にJPQRのQRコードを順次配布する予定だそうです。どんなに探してもJPQR導入店舗が見つからないわけです。

8月16日の時点で、軽井沢商工会を通して申し込みをした店舗はわずか30件とかなり少ないことにも驚きました。8月1日より実証実験スタート、10月の消費税増税を前にしたキャッシュレスを後押ししたいはずの政策ですが、どこに問合せをしても随分とのんびりしている印象を受け、その勢いは全く感じられませんでした。

JPQRに立ち込める暗雲

さらに懸念すべきはスマホ決済事業者2強と言われるPayPayとLINE Payの方針です。両者はJPQRが推進を推奨するMPM (店舗提示型コード決済)方式には不参加。CPM(利用者提示型コード決済)方式のみ参加と方針を固めました。海外の決済アプリでは日本のQRコードを読み取れないことが理由のようです。PayPayはアリババと、LINE Payはウィーチャットペイと連携しています。また、既に加盟店開拓を進めてしまっている両者にとって、JPQRのためだけにQRコードを切り替えるメリットは全くなく、むしろ加盟店の負担が大きいことから今回の方針に至ったことは明らかです。

このままいくと結局サービスごとのQRコードがいくつも設置されることになります。JPQRの存在意義自体が揺らいでしまうことにもなりかねません。何より、ユーザーにとって"かんたんで便利でおトク"でなければ、定着することはないのではないでしょうか。

ポイント還元制度でも、参加店舗が出遅れ

2019年8月13日付の日本経済新聞によると、増税時でのポイント還元制度でも中小店舗の参加が遅れているといいます。政府は10月の制度開始に間に合わせるため、7月中の申請を呼びかけていましたが、7月末時点での登録申請は24万店にとどまっています。当初は100万店規模が対象とされていたことを考えると、大きく出遅れていることがわかります。

都内でPayPayを導入した小規模の飲食店店主に話を聞いてみました。「営業さんが来て無料だからと端末とのぼりを置いていったんです。数年は手数料も無料というので導入したけど、今のところPayPayで支払ったお客さんはほとんどいません。このままだと手数料がかかるようになったら(PayPayを)やめると思います」と話します。

ポイント還元制度は10月から9ヶ月間。
手数料は決済事業者によって異なりますが、こちらも時限措置がほとんどです。
消費税増税の10月以降、日本のキャッシュレス化に変化はみられるのか。
SSLでは今後もJPQRの動きも含め、店舗と消費者双方から見たキャッシュレス化について調査を進めてまいります。

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