より快適なスマートフォンライフを創造するために研究調査しているスマートサウンドラボ(以下、SSL)が、上海と重慶に暮らす計10人を対象に、中国都市部におけるキャッシュレスの実態調査をしたところ、中国都市部におけるキャッシュレス率は100%であることがわかりました。
前回の記事:
モバイル決済大国中国・都市部の実態を上海・重慶で徹底調査 現地住人のモバイル決済生活から見えてきた中国の「今」 前編
タクシーやコンビニエンスストアはもちろんのこと、百貨店から個人経営の小規模店舗、路上の市場まで、さらには公共料金の支払いや納税まで対応しており、あらゆる場所や用途でキャッシュレスのインフラが整っているのです。ユーザーは、アリペイ、ウィーチャットペイ、銀聯カードの2つ以上を持ち合わせ、ユーザーの都合や用途、または気分で支払い方法を選べるユーザー第一主義がいかなる場所で徹底していることがわかりました。
なぜここまで中国でキャッシュレス文化が普及したのでしょうか。
後編では、中国のキャッシュレス文化の歴史と「今」をユーザー目線で探っていきたいと思います。
中国人の生活を「不便」から「便利」に変えたスマホ決済
中国でキャッシュレスが普及したのは2014年頃からです。そう、ほんの数年前です。
そしてその少し前の2012年に中国で何があったかというとスマートフォンの普及です。
ここまでは特に日本と大きく変わらないように聞こえますが、それ以前がだいぶ違います。
日本では、スマホ発売前の2010年までのデバイスの主流はパソコンとガラケーで、ガラケーがスマホに取って代わりましたが、中国人にとって、初めてのデバイスがスマートフォンだったのです。すぐに格安スマホが流通し、中国人の手にスマホが行き渡りました。
スマホ普及のタイミング、フィンテックのタイミング、そこに莫大な顧客を持つアリババ・グループ・ホールディング(以下、アリババ)と騰訊控股(テンセント)が存在したことで、急速にキャッシュレスが加速したのだと思います。
いわゆる「リープフロッグ」ですね。経済活動においては、「先進国が成し遂げてきた発展過程を、段階を踏まずに大きく進展すること」ということを意味します。
そして何よりキャッシュレスが普及した最大の理由は、ユーザーたちの声にありました。
「生活が便利になった」ということです。
中国の偽札問題は、私たち「現金主義」の日本人にとっては、想像を絶するものだと言います。代金を受け取る側がまず偽札かどうか疑い、支払った側はお釣りが偽札でないか確かめる。これが日常茶飯事だそうです。ATMから偽札が出てくるというから、何を信用して良いか全くわかりません。「現金=信用ゼロ」の社会です。そのストレスから解放されることが、キャッシュレスの価値なのかもしれません。日本人は、特別に困っていないけど「利便性を向上させる」という状態ですが、中国では、「いまある不便を解消したい」ということだったのです。
中国都市部は本当に"現金レス"だった
では、中国都市部において、現金は本当に使われていないのでしょうか。そこでSSLは調査対象の10人に1ヶ月の平均利用金額について、アリペイ、ウィーチャットペイ、銀聯カード、現金それぞれにいくら利用したかの調査をおこないました。結果を見てみると、アリペイとウィーチャットペイの利用金額にそこまで大きな差はなく、また、銀聯カードは金額の多い決済時に使ったと想定される結果に。そして肝心の現金の利用額です。10人中9人が「現金はほとんど使わない」と回答し、残りの1人が、使用率をアリペイ49%、ウィーチャットペイ49%、現金2%と回答。つまり、10人中10人が「現金をほとんど使わない」と回答しているに等しい結果になったのです。
この調査によって、中国の都市部では、現金をほとんど使っていないことが判明しました。
この結果からも、現金払いがいかに不便であったかを物語っているようでした。
中国で進む『信用のデジタル化』
そしていま中国では、『信用のデジタル化』がさらにキャッシュレスを進めています。
「現金=信用ゼロ」だった社会が、「キャッシュレス=信用アリ」という真逆の社会になりつつあるのです。
ここには「信用ポイント」という情報システムがありました。信用度を「身分、支払い能力、信用情報、交友関係、消費の特徴」の5つで評価し、ユーザーに公表しているのです。学歴や資産状況などの公開は任意ですが、公開した方がメリットのある高学歴保持者や資産家のユーザーは情報公開を躊躇しないといいます。信用ポイントが高いユーザーには様々な優遇があることは言うまでもありません。この信用ポイントは、様々な民間企業によって利用されており、例えば、あるホテルではポイントが高いほど予約が取れやすかったり、料金の優遇を受けられたりすることも。
ここで重要なのが「優遇」だけではないということです。信用ポイントが低いユーザーは、逆に冷遇されてしまいます。「優遇されない」だけでなく、「冷遇されてしまう」となっては、このシステムを無視することはできません。これが、キャッシュレスをさらに後押しした理由でしょう。
本調査中も、ある被験者に「あなたのお母さんに10万円の個人間送金ができるかやって見せてくれないか」とお願いしたところ、「信用ポイントが下がるから嫌だ」と断られてしまいました。
この信用ポイントがかなりの影響力を持っていることを、身をもって実感しました。
また、信用ポイントの評価の基準が明らかにされていないので、国民はマナーを守る、寄付をする、期日を守る、付き合う友人を選ぶといった品行方正な行動をせざるを得ないといいます。
さらに、民間企業だけでなく、一部の政府は、この信用ポイントの利用協定を結んでいます。中国政府も独自の社会信用システムを構築しており、2018年3月に、中国政府は信用ポイントが低い国民に対して、高速鉄道や高茎の利用を最長1年間禁止する処置を2018年5月1日から開始すると発表しました。対象者は、過去に犯罪歴がある人やマナー違反をした人だけでなく、社会保険料未納の人も含まれます。
今、中国では国全体で「信用」という概念が独自の方法で定着しつつあるのです。不便で、なんのポイントにもならない「現金」を使うメリットなど、どこにもないのです。
個人情報の問題や、スマートフォンを持たない高齢者が置き去りにされているなど、キャッシュレスにまつわる課題はあるにしろ、一度「便利な生活を知った人」たちは、もう元の現金生活には戻れないと言います。
中国のキャッシュレス社会は、今後も勢いを増しそうです。
まとめ
- キャッシュレスの背景には、スマホの爆発的な普及と膨大な顧客を持つ2大企業の存在が大きかった
- キャッシュレスがここまで普及した理由は、ユーザーの"不便解消"にあった
- 中国都市部では、ほとんど現金は使われていないことがわかった
- キャッシュレスをさらに促進させているのが、信用のデジタル化である
Smart Sound Lab記事の引用について
Smart Sound Labの記事の引用については自由ですが、出展元としてかならずSmart Sound Labを明記していただくようお願いします。また、ウェブ媒体、メールマガジンなどでの引用の際は、Smart Sound Labトップページへのリンクか、引用記事へのリンクをお願いします。
【中国現地ににおけるスマホ決済 実態把握調査】
調査主体:Smart Sound Lab
調査場所:上海、重慶
調査対象:25歳〜45歳の男女10人(上海:女性3人、男性2人 重慶:女性4人、男性1人)
調査時期:2018年5月
※ 本文の数値は四捨五入した整数で表記しています。
※ 百分率表示は四捨五入の丸め計算をおこなっており、合計が100%とならない場合があります。