先月の記事『キャッシュレス率90%の韓国から学ぶ世界のデータ通信技術 最新事情』では、音を活用したデータ通信技術が消費者の生活の中に浸透しつつある韓国の事例をご紹介しました。(https://smartsoundlab.com/2020/05/000069.html)
本篇では日本での音声近接データ通信についてご紹介したいと思います。
デバイスに振り回されない 誰でも使える技術で文化に
「本当に便利なサービスというのは"誰もが使える技術やサービス"でなくてはならない。そこを突き詰めて行ったら音を活用したデータ通信技術に行き着いた。スマートフォンが"電話"である限り「マイクとスピーカー」はなくならないから。この技術を文化にしたい」
そう話すのは、新宿区に本社を置く株式会社スーマート・ソリューション・テクノロジー(SST)社長の山川進(やまかわ・すすむ)氏です。
同社は、聴こえない音による近接データ通信ソリューションを広く提供しています。
山川氏の言う通り、2008年のiPhone日本上陸以来、近接データ通信技術はモバイルデバイスの進化の度に大きく振り回されてきました。
例えば、ガラケーにはFeliCaや赤外線通信などさまざまな技術がありましたが、これらを搭載したサービスは、スマホの登場でいつの間にか姿を消しました。
スマホ全盛期になった今でも新しい機種が出れば、周辺機器を開発していたメーカーは都度、対応に追われることになります。
こういった課題を解決する一つの方法が、音声データ通信技術なのです。
それ専用のハードウェアを必要としないソリューションであることと、今や生活必需品となったスマホとの相性が良いことは、前篇でもご紹介した通りです。
さらに、音声データ通信技術が注目されている理由は、汎用性の高さです。
例えば店舗、商業施設、教育機関、工場、イベント会場、街中、自動車、スマート家電、ネット回線がつながっていない発電所などでの活用が国内外で見受けらます。
また、汎用性の高さは環境だけではありません。決済から、サイネージなどのマーケティング目的、チェックイン、キー機能など、利用目的が多様化していることも音声データ通信の特徴といえます。
SSTでは、独自の認証・通信技術による勤怠管理システムや経費精算が主力さ=ビスとして同社を牽引してきました。また、2012年にリリースした店舗向けO2Oサービス『ZeetleCS(ジートルカードサービス)』は1200万人のユーザーにダウンロードされ、飲食店や美容院、クリニックなど6000店舗以上に導入されています。
『ZeetleCS』は簡単に言うとデジタルのポイントカード。来店するとポイントが貯まるというシンプルなものですが、選ばれているのには紙にはないメリットがあるから。
例えば、ユーザー側にとってはお財布にポイントカードを入れる必要がないことから、財布がかさばらないし、ポイントカードを忘れることもありません(スマホを忘れなければ)。
人との接触を避けたいこのご時世にはコンタクトレスなの点も歓迎されています。さらには個人情報のやりとりが一切なくアプリをダウンロードするだけというのも会員になるハードルが低く双方にとってメリットになっています。
店舗側にとっては、顧客の来店頻度を把握できたり、その顧客に合わせて特典やメッセージを送ることができるので、より効果の高い販促に繋げられると評判で着々と広がっています。
また、これ以外のサービスでも同社の認証・通信技術「トラストサウンドサービス(TSS)」SDKを公開し、音声データ通信技術を活用した安全な様々なソリューションを様々な企業と協業して開発・展開しています。
音声データ通信技術をめぐる企業の動きが加速化
他の企業の動きも加速しています。
音とICT機器をつなぐプラットフォームおよびテクノロジー「SoundUD」(Sound Universal Design)を開発したヤマハは、音声トリガーと呼ばれる一般的なスピーカーを利用して音響通信が行える技術を用いて、「SoundUD」事業を広く展開しています。
2014年にはこの「SoundUD」を活用し、対応スポットの情報や対応アナウンスの内容を、その場ですぐに翻訳できる外国人観光客をターゲットにした多言語案内アプリ「おもてなしガイド」をリリースしました。
さらに2017年には言語や聴力への不安がない音のユニバーサルデザイン化社会づくりを推進するための「SoundUD推進コンソーシアム」を設立しました。
現在、230を超える企業・団体と共にその普及に取り組むなど、大きな動きを主導しているところもさすがです。
そして昨年9月には首都圏の鉄道事業者、バス事業者、航空会社の15社が「SoundUD」を活用した多言語での案内情報提供を順次開始し、2020年7月を目途に導入完了を目指すことを発表するなど、インフラ事業社を巻き込むことで音声データ通信技術が消費者により浸透することが期待されます。
もう一つの事例を見てみましょう。
SSLでも度々ご紹介している米国のLISNR(リスナー)も創業から8年目を迎える中、動きが本格化してきました。
LISNRの技術も、データを音声に載せて送る音声データ通信です。スピーカーから、Smart Toneと呼ばれるデータを音声波形化した通信プロトコルを活用し、スマートフォンなどのマイクを備えたデバイスへ送るというもの。受け手のデバイスはSmart Toneを音として受け取ってからデータに戻して処理します。
2019年11月には世界最大の決済ネットワークを持つVISAがLISNRへの出資を発表するなど、これまで欧米での動きが主だったLISNRですが、ある日本企業がLISNRに目を付けたのです。なんと、株式会社NTTドコモ・ベンチャーズがLISNRへの出資を昨年12月に発表しました。
国内外で働き方改革や少子高齢化、さらにはコロナショックといった社会的背景が後押しし、「レジレス」「無人化」「コンタクトレス」などの需要が拡大していることで、音を活用したソリューションに世界中の期待が高まっていることが想像できます。
NTTドコモ・ベンチャーズの広報は、NTTグループ各社が提供してきた決済機能や認証機能と、出資先の技術を活用したソリューションにより、更なるリテイル市場の発展に寄与したいと発表しています。
音声データ通信技術を持つ各社が、多様な業界・業種と連携し、消費者がより便利で安全になる社会実現を目指しています。
実は、音声データ通信技術を「音とは知らずに」既に使っている人も少なくないかもしれません。
SSLは今後も国内外の技術の進歩や動きに目を光らせ、最新情報をご紹介していきたいと思います。
参照過去記事:
『音」の時代がくる? 海外で音通信によるキャッシュレス決済の検討が本格化』
https://smartsoundlab.com/2019/12/000065.html
出典:
株式会社NTTドコモ・ベンチャーズ プレスリリース
https://www.nttdocomo-v.com/release/tw698bjh39/
SoundUD推進コンソーシアム https://soundud.org/
おもてなしガイド http://omotenashiguide.jp/